シンフォニア
Sinfonia


Vientos
シンフォニア
『Sinfonia(シンフォニア)』
読売日本交響楽団トロンボーンカルテット
トロンボーン 桒田 晃 Akira Kuwata
トロンボーン 青木 昂 Koh Aoki
トロンボーン 葛西 修平 Shuhei Kasai
バストロンボーン 篠崎 卓美 Takumi Shinozaki
読響の愛称で知られる読売日本交響楽団は1962年に読売新聞社、日本テレビ放送網(東京)、読売テレビ(大阪)のグループ3社が母体となり創設された日本を代表するオーケストラのひとつである。そして読売日本交響楽団トロンボーンカルテットはその名の通り、読響のトロンボーンセクションのメンバーである桒田晃、青木昂、葛西修平、篠崎卓美によるカルテットである。2020年に流行が拡大した新型コロナウイルス感染症により、オーケストラは公演の中止や、規模の縮小などの影響を受けた。その後公演は再開したが、奏者同士の距離を確保することが求められ、必然的に編成が小さくなりトロンボーンの出番が少なくなったため、せめて自分達の研鑽になればとトロンボーンセクションで集まって練習を始めたのである。以前から「オーケストラのセクションでカルテットが出来たら…」との思いはあったが、日々の仕事に追われ実現することはなかった。しかし仕事としてではなく、ただ集まって音を出した時の喜びと、オーケストラのセクションでカルテットを演奏することの可能性を感じ、社内サークルの様な形で活動を始めたのであった。最初はあくまで自己研鑽のためのものであったが、「このメンバーであの曲をやってみたら?」「このメンバーでこんな活動ができたら?」などという話が出始め、正式に読売日本交響楽団トロンボーンカルテットとして活動することとなった。本当に音楽家というのは欲張りな生き物である。自分達で楽しむだけのためのものだったアレンジ作品も、多くの方々に楽しんでいただきたいとの思いから楽譜を出版し、演奏も多くの方に聴いていただきたい思いからコンサートや配信などを行い、ついにはCDを発売することとなった。同じオーケストラでセクションを組む我々ならではのサウンドや、アレンジをこのCDでご堪能いただければ幸いである。
読売日本交響楽団トロンボーンカルテット
ライナーノーツ
今回のCDには私のアレンジが10曲収録されています。私はトロンボーンカルテットが大好きで、様々な団体の演奏やサウンドに憧れ、追い続けてきました。ただカルテットの“アレンジ”に関しては、2つの団体から受けた影響が大きいと思います。一つはロスアンゼルス・フィルハーモニックトロンボーンアンサンブルのレコードで聴いた、ラルフ・ザウアー氏のアレンジによるペルゴレージ、バッハ、ブラームス、ブルックナーなど純度の高い美しいサウンドです。もう一つは東京トロンボーン四重奏団のCDで聴いた小田桐寛之氏のアレンジによるバッハの重厚なサウンドと、フィルモア、そしてポルカなどで聴ける煌びやかなサウンドで、本当に毎日のように聴いていました。そのどちらにも共通するのは、編曲者がトロンボーンのことを熟知しているのはもちろんのこと、一緒に演奏するメンバーのことを熟知していること、そのアレンジが一流の音楽家たちによって録音されたこと、そして、その楽譜が出版されたこと。このことは私に大きな影響を与え、聴く喜びだけではなくトロンボーンカルテットを演奏する喜びを教えてくれました。
我々読売日本交響楽団トロンボーンカルテットのシリーズも同じように、聴く方にも演奏する方にも楽しんでいただける選曲とアレンジを心掛けましたので、是非聴いて、演奏してお楽しみいただければと思います。(篠崎 卓美)
『Sinfonia (シンフォニア)』
1
バッハ, J.S. / arr. 篠崎 卓美
カンタータ「主よ、我は汝を求む」BWV150より シンフォニア
出版:Kazenone Music Publishing LLC
「主よ、我は汝を求む」BWV 150は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの最初期の教会カンタータと言われており、4声部の合唱、2つのヴァイオリンとファゴット、通奏低音という非常に小さな編成で書かれています。全7曲で構成されるこのカンタータは、憂鬱なシンフォニアに始まり、合唱楽章とアリアを交互に繰り返し、シャコンヌ形式による合唱曲(チャコーナ)で終わります。このチャコーナの低音主題を、ブラームスがほぼそのままの形で交響曲第4番の4楽章で引用していることは有名で、ご存じの方も多いことと思います。
今回収録した「シンフォニア」は、わずか19小節の短い楽章ですが、オクターブ跳躍と下降する半音階というシンプルな動機によって、苦悩、嘆きなどが表されています。原曲の持つ響きをトロンボーンカルテットでも感じていただけるように、シンプルなアレンジにしました。(篠崎 卓美)

2
アルブレヒツベルガー, J.G. / arr. 篠崎 卓美
ドッペルフーガ ハ短調
出版:Kazenone Music Publishing LLC
独奏楽器として歴史も浅く、レパートリーも少ないトロンボーンにとって、アルトトロンボーン協奏曲を遺したヨハン・ゲオルク・アルブレヒツベルガーは大変重要な作曲家の一人ですが、その協奏曲以上に我々にとって親しみがあるのは、Mark Tezak氏の名アレンジによってトロンボーンカルテットの定番となった「ドッペルフーガ」ではないでしょうか。私も長年このアレンジを楽しんできた一人ですが、以前から原曲通りのハ短調の方がトロンボーンの響きに合うのではないかということと、3小節ほどカットされていることが勿体ないと感じていました。みなさんが慣れ親しんだアレンジとは違いますが、こちらのアレンジで新たな魅力を感じていただき、多くの皆さんに楽しんでいただければと思います。オルガン曲とトロンボーンとの相性の良さを改めて感じられることと思います。(篠崎 卓美)

テレマン, G.P. / arr. 篠崎 卓美
4つのヴァイオリンのための協奏曲 TWV 40:201
出版:Kazenone Music Publishing LLC
3 I. Largo
4 II. Allegro
5 III. Adagio
6 IV. Vivace
ゲオルク・フィリップ・テレマンの4つのヴァイオリンのための協奏曲は、通奏低音のない4楽章からなる4つのヴァイオリンのために書かれた協奏曲で、ト長調(TWV 40:201)、ニ長調(TWV 40:202)、ハ長調(TWV 40:203)、イ長調(TWV 40:204)の4曲がセットになっています。今回1曲目にあたるト長調(TWV 40:201)をアレンジしましたが、元々同属楽器のために書かれた曲ということもあり、トロンボーンカルテットとの相性もとても良いと思います。イギリスの名トロンボーン奏者Alan Lumsden氏よってアレンジされたニ長調(TWV 40:202)は、「4声のための協奏曲」の名でトロンボーンカルテットの定番曲となっています。原曲はト長調ですが、今回のアレンジはトロンボーンで演奏しやすく、安定した響きのするヘ長調に移調しています。(篠崎 卓美)

バッハ, J.S. / arr. 篠崎 卓美
8つの小前奏曲とフーガより 小前奏曲とフーガ No. 6
出版:Kazenone Music Publishing LLC
7 Prelude
8 Fugue
「8つの小前奏曲とフーガ」は長年バッハの作品とされてきましたが、現在では偽作であるといわれています。しかし、音楽的には大変魅力があり、D、カバレフスキーによってピアノ用にアレンジされ、現在も多くの演奏家に愛されています。ト短調のフーガのみが「フーガト短調」の名で前述のロス・フィルのトロンボーンセクションのアンサンブルのレコードに収録されており、その演奏とR,ザウアー氏の素晴らしいアレンジに大きな衝撃を受けました。ブックレットに曲の詳細の記載がなく、ネットもない時代でしたので、この原曲を見つけるためにバッハのあらゆるフーガを片っ端から聴いて探し、見つけた時の喜びは忘れられません。そのフーガも大変魅力的ですが、シンプルな和音進行とアルペジオで構成された、わずか1分50秒ほどの小前奏曲が非常に魅力的です。コンサートピースとしてはもちろん、カルテットのサウンドづくりをするために演奏するなど、様々な形で楽しんでいただけるように意識してアレンジしました。(篠崎 卓美)
9
グリーノ, F.
デピュティ
出版:Cimarron Music Press
ニューヨーク出身のフランク・グリーノは、プリンスジョージズ・フィルハーモニックのバストロンボーン奏者として活動する傍ら、作曲家としてもユーフォニアムの世界的名手、スティーブン・ミードをはじめとして金管楽器奏者から作品を数多く委嘱されています。
この《The Deputy》は2013年国際トロンボーン・フェスティバルでエリジアン・トロンボーン・コンソートによって初演されました。音楽は冒頭の1つのフレーズをもとに緩―急―緩の3つの場面とコーダに展開されていきます。“Deputy” には「代理」、転じて「議員」という意味も持ち合わせますが、ここでは「使節」の意味をとるのが適切でしょう。遠くからやってくる「使節」を温かく迎え入れるような第1部分、そして全員揃ったところで意気軒昂な様子の第2部分、固く握手を交わすかのように力強くハーモニーを奏でる第3部分、そしてコーダ。シンプルな構成ながら、物語を感じさせる一曲です。(西下 航平)
プレトリウス, M. / arr. 篠崎 卓美
テルプシコーレ舞曲集より Set 1
出版:Kazenone Music Publishing LLC
10 I. Courante
11 II. Ballet
12 III. Gaillarde
13 IV. Courante
作曲者のミヒャエル・プレトリウスは、オルガン奏者としても活躍し、同時代のドイツ音楽家の中で最も精力的に活動しました。そのプレトリウスが主に力を注いだのは教会音楽だったため、世俗曲および器楽曲の曲集のシリーズは一巻だけしか出版されませんでした。それがこの「テルプシコーレ」です。
今回収録したものは「テルプシコーレ」に収められた300余りのフランスの舞曲から、Courante・Ballet・Gaillard・ Couranteの4曲を「Set 1」としてアレンジしたものです。バロック時代の演奏習慣としてリピート時は楽譜にはない装飾を加えたり変奏を加えたりしています。みなさんが演奏する際は参考にしながら、みなさんなりの装飾や変奏を加えて楽しんでいただければ幸いです。そして、今回収録した「Set 1」の他に、「Set 2」もあり、この2つのセットの中から数曲を抜粋して演奏することも想定してアレンジしました。音域の都合ではなくサウンド面を考慮し、1番パートはアルトトロンボーンを使用しています。(篠崎 卓美)
14
マーラー, G. / arr. 篠崎 卓美
交響曲第3番 第6楽章より コラール
出版:Kazenone Music Publishing LLC
交響曲第3番は、オーケストラに加えてアルトの独唱、女性合唱と児童合唱を伴う大きな編成で、マーラーの交響曲の中で最も演奏時間の長いことでも知られています。そしてトロンボーン吹きにとってマーラーの交響曲第3番といえばなんといっても第1楽章での1番トロンボーンが奏でるあのソロでしょう。ただ、4番トロンボーンを演奏する僕にとっては、この6楽章のメロディを聴くために演奏しているといっても過言ではありません。第1楽章でひたすらソロの成功を祈りながら演奏し、Tacetの第2,3、4楽章でしっかりと休み、第5楽章の児童合唱の声に癒されつつ、わずか14小節ほどを演奏し終えると、第6楽章冒頭のあの美しい弦楽合奏が始まるのです。私はいつも同じステージ上の特等席で、この世のものとは思えないほどの美しい音楽をいつか演奏してみたいと思っていました。そのただただ美しい音楽からほんの一部ではありますが、トロンボーンでも味わえるようにアレンジしました。今回の録音では、バストロンボーンパートをコントラバストロンボーンで演奏しています。(篠崎 卓美)
15
クーヴィロン, T.
シニュエイションズ
出版:Cimarron Music Press
トーマス・クーヴィロンはルイジアナ州出身の作曲家で、イースタン・ケンタッキー大学で音楽課程の教授も務めています。アコースティックな作品に加え、電子音楽の分野でも活躍しています。この作品は《Sinuations》という題が示す通り、トロンボーンでは基本的な音となるB♭の周りをうねうねと蠢くさまが特徴的な作品です。蠢動は広がり、やがて4パートにわたって横断していきます。そんな蠢きも一旦は散らばってしまうものの、また始めの状態に戻り、そしてまた散らばり……と、曲全体の構成もまさに“Sinuations”と言える作品です。(西下 航平)
16
スパーク, P. / arr. 篠崎 卓美
イーナのための歌
出版:not published
この「イーナのための歌」は、ニュージーランドの代表的ユーフォニアム奏者R. マクドネルの委嘱で作曲されたロマンティックで美しいユーフォニアム独奏曲です。曲名に使われている「Ina」は、P. スパークに曲を依頼したマクドネルの妻リンダの叔母のファーストネームで、ニュージーランドでは「イーナ」と発音されるそうです。今回の収録にあたり、作曲者御本人に楽譜を見ていただいたところ、トロンボーンカルテットで演奏することはとても良いアイディアで、良いアレンジだとの有難いお言葉をいただきました。この録音の聴きどころといいますか私のこだわりとしては、ユーフォニアムの独奏曲ですが、トロンボーンカルテットのオリジナル曲に聴こえるよう意識してアレンジしました。(篠崎 卓美)
アンレーセン, M.
4本のトロンボーンのための3つのスウェーデン民謡
出版:Danish Brass Publishing
17 I. Farewell
18 II. And Soon It Will be Blossom-Time
19 III. “Walking Tune” from Äppelbo
モーエンス・アンレーセンはデンマーク南東部の街:ボアディングボーの歩兵連隊音楽隊、スウェーデンのマルメ交響楽団を経て、1974年にデンマーク王立管弦楽団のバストロンボーン奏者となりました。後にデンマーク音楽アカデミーの教授も務めています。
《3つのスウェーデン民謡》は4本のトロンボーン、またはユーフォニアムで演奏することが出来る作品です。1曲目は惜別の歌である《風も無しに誰が航海できようか?》が変奏曲風に、2曲目は春を告げる歌である《花咲く季節がやってくる》が、まるで花があちらこちらで咲き乱れるようなチャンス・オペレーション風に、そして最後はコラール風に、3曲目は散歩歌である《エッペルボのウォーキング・チューン》が様々な「歩き方」でアレンジされています。(西下 航平)
20
アイルランド民謡 / arr. 篠崎 卓美
ダニー・ボーイ
出版:Kazenone Music Publishing LLC
アイルランド民謡といえば、「蛍の光」「庭の千草」「アイルランドの子守唄」など数多くありますが、その中でも「ロンドンデリーの歌」は最も有名で多くの方に親しまれているのではないでしょうか。この親しみやすいメロディにイギリスの法律家で作詞家のフレデリック・ウェザリが詩を当てはめた「ダニー・ボーイ」がアメリカでヒットし、世界中に広まりました。また、その美しいメロディは歌だけではなく、様々な編成、様々なジャンルにアレンジされており、世界中で愛され続けています。もちろんトロンボーンカルテットにも素晴らしいアレンジが数多くあります。素晴らしいアレンジがたくさんあるこのメロディですが、どの調性で、どのようにハーモニーを付ければトロンボーンが美しく聴こえるかということを、僕なりにこだわってアレンジしました。(篠崎 卓美)
21
クック, E. / arr. 篠崎 卓美
ボリバー
出版:not published
イギリス生まれのエリック・クックはピアニストとしてキャリアを開始し、第二次世界大戦中には軍楽隊のピアニストとして活動、戦後は多くの英国の映画やテレビ番組の指揮者としても活躍しました。彼の生み出す音楽はL. アンダーソンのような非常にキャッチーで聴きやすい作品が多く、このボリバーも他の作品と同様にキャッチーで聴きやすい作品になっています。トロンボーンのソロ曲としては珍しく、ラテン風のノリの良い曲調で人気の高い曲です。非常に難易度が高い曲ですが、今回の録音にあたっては、技術的なことよりオケマンが真剣にこの曲を楽しんで演奏している雰囲気とライヴのようなテンションを収録することを目標としました。その雰囲気や空気感を皆様に感じていただければ幸いです。(篠崎 卓美)
22
ブルックナー, A. / arr. 篠崎 卓美
アヴェ・マリア WAB 7
出版:Kazenone Music Publishing LLC
ブルックナーは「アヴェ・マリア」を3曲遺しており、いずれもヘ長調で書かれてます。しかし、編成はそれぞれ違い、第1作(WAB 5)は4部合唱とオルガンのための曲。第2作(WAB 6)は無伴奏の7声合唱のための曲。そして、この第3作(WAB 7)はアルトまたはバリトン独唱と鍵盤楽器(オルガン、ピアノ、ハーモニウム)のために書かれており、第2作のWAB 6が最も有名です。ブルックナーの音楽とトロンボーンのサウンドとの相性は非常によく、交響曲で知られるオルガンサウンドだけではなく、ミサ曲第2番でみられる宗教曲での使用法や、トロンボーン3重奏のために書かれた2曲のエクアーレなど、ブルックナーの作品にはトロンボーンのサウンドに対する強いこだわりを感じます。前述の通り、原曲はヘ長調ですがこのアレンジは多くの皆さんが演奏しやすいよう変ロ長調に移調してあります。またこの録音では、バストロンボーンパートをコントラバストロンボーンで演奏しています。(篠崎 卓美)

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Recording Date 1-3 August 2022 & 7 December 2022
Recording Location Yomiuri Nippon Symphony Orchestra Rehearsal Hall & Coppice Miyoshi
Producer Takashi Kamada
Director Kohei Nishishita
Recording Engineer Mitsumasa Aono
Mixing Engineer Shinji Yasuda
Mastering Engineer Mitsumasa Aono and Shinji Yasuda
Cover Design Tsuyoshi Shimono
Special Thanks Yomiuri Nippon Symphony Orchestra
Ⓟ©2023 Kazenone Music Publishing LLC
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